とある緩和ケア医の呟き

かけだし緩和ケア医のブログ

せん妄というもの2

せん妄というもの2回目

kanwa-medical.hatenablog.com

 

CAMというツール

CAM(Confusion Assessment Method)

1.急性発症で変化する経過

2.注意力散漫

3.支離滅裂な思考

4.意識レベルの変化

せん妄の診断: 1,2 は必須に加えて 3 または 4

を使って、せん妄の早期発見をして欲しい。という話だった。

 

せん妄は入院患者の10%程度、末期がん患者では40%以上の罹患率があると言われている。しかもその多くは治療可能である。

一方で、アメリカの高齢者病棟で看護師の経験的判断に任せた場合、せん妄が80%以上が見逃されているという研究も出ている。

 

海外の複数の論文で、せん妄は死亡率の増加に関係しているとの研究結果が出ている。

 せん妄に罹患している患者の家族は「過活動型」「低活動型」の如何に関わらず、精神的苦痛を受けていることは知られている。

また、せん妄に罹患している患者の入院期間が伸びることも知られており、医療費の高騰に影響を与えている。

 

 

つまり、系統立ててせん妄を見つけることで、寿命を延ばすことが可能になり、家族の苦痛を減らせ、医療費の削減にも繋がる良いことづくめなのだ。

 

せん妄を侮ることなかれ

せん妄というもの

「せん妄」という言葉がある。

せん妄 - 脳科学辞典

 

多くの医療従事者にとっては、患者さんがせん妄になると点滴を抜かれたり、暴言を吐かれたり、暴力を振られたり、忌むべきものの代表と言われるような病態である。

しかし、この病態は「せん妄」の一側面を表しているだけで、実際には活動性が下がるようなタイプのせん妄も存在している。

うつ病として捨て置かれたり、病気の進行に伴う全身状態の悪化として流されたりしている現状がある。回復の余地があるにも関わらずだ。

 

つまりせん妄には

「過活動型」「低活動型」があり、その2つを揺れ動く「混合型」という3種類に分類できる。

そしていずれも適切な治療を行うことで、QOLの改善を目指すことが出来る。

 

せん妄の診断基準として以下を提示する

The DSM–5 diagnostic criteria for delirium (2013)

(せん妄の診断基準(DSM–5, 2013)

以下の A~E をすべて満たすことでせん妄と診断される.

A.注意の障害(すなわち,注意の方向付け,集中,維持,転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)

B.その障害は短期間のうちに出現し,(通常数時間~数日),もととな る注意および意識水準からの変化を示し,さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある.

C.さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損,失見当識,言語,視空間認知,知覚).

D.基準AおよびCに示す障害は,他の既存の,確定した,または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし,昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない.

E.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が他の医学的疾患,物質中毒または離脱(すなわち,乱用薬物や医療品によるもの),また は毒物への暴露,または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある.

アメリカ精神医学会(日本精神神経学会日本語版用語監修):DSM–5精神疾患の診断・統計マニュアル,医学書院,東京,2014

 

はっきり言って、煩雑で小難しいこの診断基準を使って判断することは現実的ではない。一部で利用されている簡易ツールを紹介する。

CAM(Confusion Assessment Method)

1.急性発症で変化する経過

2.注意力散漫

3.支離滅裂な思考

4.意識レベルの変化

せん妄の診断: 1,2 は必須に加えて 3 または 4

これだけでは少しわかりにくいので解説を付記する。
①入院時に比べ、もしくは以前診察したときに比べ、精神状態が変化しているか
 日内変動があるか
②集中困難。他のことに気を取られやすい。会話が理解できない。など。
③会話に一貫性がない。不明瞭または話の筋が通っていないなど
④意識レベルは下がっているか、もしくは興奮しているか
 
①②に該当すると、③④も自動的に該当しそうなツールではあるが、せん妄を除外するために必要なツールで、患者のQOL上昇に寄与するツールなので、是非有効活動して欲しい。
 

 

 

緩和ケア医と緩和ケア

「緩和ケア」という領域は国レベルから各医師レベルに至るまで、ほぼ皆が重要と考えている領域である。

しかし、各医師が自分の専門領域を「緩和ケア」としたいかと言うとまた話は別である。

語弊を恐れず言うなれば、

多くの医師が「cure」を目指して医療を行なっているのに対し、緩和ケアは「care」を行うことが役割であることに由来している。

 

Weblio辞書の内容を引用させて頂くが

ejje.weblio.jp

ejje.weblio.jp

 

「care」と「cure」の違いは以上のような意味があって、医師が目指す「治す」と言う行為に対して、「配慮する」と言うのは看護師を含めた医師以外の医療従事者の仕事だと考えているためだ。

これを如実に示していることが、全国で緩和医療学会の認定する緩和ケアの専門医が「200人ちょっと」しか居ないと言う事実である。(2018年4月現在)

専門医制度が始まって期間が短い(2010年から認定制度開始)ことも多少は影響するとは思うが、それにしても年間20人程度しかいないわけなので、いかに少ないかわかると思う。

 

国の方針で緩和ケア領域の充実が図られているのは事実だが、医師側の意識として緩和ケアは「誰か」専門家に任せたいと言う気持ちがあるのは確かである。

 

ただし、緩和ケア領域の充実を図るために「緩和ケアセミナー」受講が半ば義務化している為、全体的には底上げされているのも事実である。

この為、以前とは違って、どこの病院に行っても最低限以上の緩和ケアを受けることができるようになった。

実感としては、ここ10年で医師側の意識は著明に変化していて、自分の専門科でおさまってグチャグチャだった終末期の緩和ケアを、専門家に早期に依頼して介入するようになった。

緩和ケア専門の医師のニーズはかなり高まっていて、がん拠点病院と言われる病院には緩和ケアチームと言う専門チームが置かれるようになっている。

 

今後、益々ニーズが高まっていくことは確かだと思われる。実際ニーズの高まりに伴って、法的にも規制緩和がなされてきている。今は緩和ケアを積極的に志している医師の多くは意識が高く、患者の最善を目指して活動している。しかし、ニーズだけが高まりすぎると質を確保することが難しくなっていくだろう。質が落ちないように監視する制度が必要だと思われる。

麻薬を始めましょうと言われた時に

がんの痛みが良くならない時に

「麻薬を始めましょう」と言われることがあります。

 

前回の緩和ケアという言葉に抵抗のある人が更にショックを受けます。

「もうそんなに病気が進んでしまったのでしょうか」

 

麻薬って何ですか?

麻薬 - Wikipedia

Wikiには色々と難しく書かれていますが

 

結局のところ、医療用に使う範囲内においては

オピオイド受容体に関係する痛み止め」

という程度の認識でしかありません。

 

手術中の痛み止めも一部は「麻薬だし、術後にも使うこともある。

実は一部の咳止め薬にも含まれていたりします。

意外と身近に使われている「痛み止め」が「麻薬」です。

 

そして、麻薬が「得意な」種類の痛みと「不得意な」種類の痛みがあります。

ですから、麻薬だけではなくて、他の種類の痛み止めとの組み合わせが大事です。

緩和ケアとは

多くの人(一部の医師や看護師含め)は死期が迫った患者の痛みと心のケアをすること「誤」認識しています。

この結果、緩和ケアチームや病棟の人間が関わることを「死刑宣告のように感じる」患者さんが多くいます。

 

日本緩和医療学会のホームページの緒言・提言には

緩和ケアの定義(WHO 2002年)
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。

緩和ケアは

  • 痛みやその他のつらい症状を和らげる
  • 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
  • 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
  • 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
  • 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
  • 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
  • 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
  • QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
  • 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む

 【参考】「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年)」定訳作成について

 と書かれているわけですが、

 

長ったらしいのでまとめると

命に関わる病気(初期か末期かに関わらず)に伴う、患者や家族の色んな苦痛(肉体的・精神的・社会的・金銭的)を少しでも和らげるよう、様々な関わりを持つこと

と書かれているわけです。

 

つまり、がん(心不全や神経難病)と診断された時点から「緩和ケア」の導入はされるべき。それを皆がキチンとしないから緩和ケア=死刑宣告となってしまうのだと思う。

 

少しでも緩和ケアという言葉が皆に馴染むよう、ブログを書いて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。