とある緩和ケア医の呟き

かけだし緩和ケア医のブログ

せん妄というもの

「せん妄」という言葉がある。

せん妄 - 脳科学辞典

 

多くの医療従事者にとっては、患者さんがせん妄になると点滴を抜かれたり、暴言を吐かれたり、暴力を振られたり、忌むべきものの代表と言われるような病態である。

しかし、この病態は「せん妄」の一側面を表しているだけで、実際には活動性が下がるようなタイプのせん妄も存在している。

うつ病として捨て置かれたり、病気の進行に伴う全身状態の悪化として流されたりしている現状がある。回復の余地があるにも関わらずだ。

 

つまりせん妄には

「過活動型」「低活動型」があり、その2つを揺れ動く「混合型」という3種類に分類できる。

そしていずれも適切な治療を行うことで、QOLの改善を目指すことが出来る。

 

せん妄の診断基準として以下を提示する

The DSM–5 diagnostic criteria for delirium (2013)

(せん妄の診断基準(DSM–5, 2013)

以下の A~E をすべて満たすことでせん妄と診断される.

A.注意の障害(すなわち,注意の方向付け,集中,維持,転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)

B.その障害は短期間のうちに出現し,(通常数時間~数日),もととな る注意および意識水準からの変化を示し,さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある.

C.さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損,失見当識,言語,視空間認知,知覚).

D.基準AおよびCに示す障害は,他の既存の,確定した,または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし,昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない.

E.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が他の医学的疾患,物質中毒または離脱(すなわち,乱用薬物や医療品によるもの),また は毒物への暴露,または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある.

アメリカ精神医学会(日本精神神経学会日本語版用語監修):DSM–5精神疾患の診断・統計マニュアル,医学書院,東京,2014

 

はっきり言って、煩雑で小難しいこの診断基準を使って判断することは現実的ではない。一部で利用されている簡易ツールを紹介する。

CAM(Confusion Assessment Method)

1.急性発症で変化する経過

2.注意力散漫

3.支離滅裂な思考

4.意識レベルの変化

せん妄の診断: 1,2 は必須に加えて 3 または 4

これだけでは少しわかりにくいので解説を付記する。
①入院時に比べ、もしくは以前診察したときに比べ、精神状態が変化しているか
 日内変動があるか
②集中困難。他のことに気を取られやすい。会話が理解できない。など。
③会話に一貫性がない。不明瞭または話の筋が通っていないなど
④意識レベルは下がっているか、もしくは興奮しているか
 
①②に該当すると、③④も自動的に該当しそうなツールではあるが、せん妄を除外するために必要なツールで、患者のQOL上昇に寄与するツールなので、是非有効活動して欲しい。